角張渉『衣・食・住・音 音楽仕事を続けて生きるには』制作過程

カクバリさんの著書が、ついについに発売となった。

「大原くん、本のデザインお願いします!」うおおー!!! から7年(!)。

 

カクバリズムで一番最初に衝撃を受けたのは、YOUR SONG IS GOODのTシャツだった。これは15年前の話。友人のまっちゃんが着ていたそのTシャツは、手描き文字やドローイングの筆致や抜け感も、レイアウトのサイズ感も、ボディの色選びもなにもかもが最高で、バンドやレーベルの呼吸をまとった生き物に触れるような肌感覚に痺れ、楽曲世界まで一気に引きずり込まれた。音楽に近くて、楽曲制作と同一線上にあるようにも見えたそのTeeの作者は、バンドメンバーであるモーリス(吉澤成友)さんだったということを後に知って納得したのだけど、その納得とはつまり、これが受注で承った同業者の仕業だった場合、とんでもないチューニング力と描写力を持ち合わせたぶっ飛びの輩であることは間違いなく、それは食らうなあ…‥、と思っていたから。

 

 

 

手tee
 
 
 

結果的にはデザイナーではなくバンドメンバーだったとのことで一瞬安心したんだけど、いや待てよ、メンバーなら誰でもこんなデザインができるわけでももちろんないわけで。

簡単にやっているように見えて、真似しても似ない線とはこういうものだ。バンドやレーベルが切磋琢磨する一線と、それを描き出す線の間合いは、グラフィックの枠を越えて大きな指標となった。

 

この本の3章に、〈リリースとリリースの間にやることがすべて〉という見出しの段があって、完成品であるアルバムなどの音源のリリースの「間」の仕事の大切さについて語られている。カクバリズムの仕事は、リリースとリリースの間に、人と音楽の間や、音楽を楽しむ空間や時間や行間のような間(ま)を紡いでいる仕事なんだとあらためて気づく。

この間合いや間取りのようなものが、カクバリズムの独自性であり、カクバリさんの人間性でもあると思う。

 

 

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カクバリズム10周年時のフライヤー(2012年)

 

 

完成品はもちろん結晶としてありつつ、その間に前後賞みたいなものがあって、賞って言ってしまうとあれなんだけど、早起きして誰もいない時間を歩くような感覚とか、脇目も振らずに没頭している時間とか、打ち合わせの帰り際に立ち話でさらに盛り上がる会話とか、4つ打ちのキックに少しずつ楽器が重なっていく感じとか、とか、とか、ああこれ! という語りかけやドライブ感が必ずあって、その制作過程の間に立ち上がるスゴ味(まえがきから引用すると『雑味』のようなもの)は、自分がカクバリズムとの仕事で味わってきた得難い糧そのものでもある。

 

 

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この本には、〈音楽仕事を続けて生きるには〉というサブタイトルがついている。「音楽の仕事」ではなくて「音楽仕事」という言葉を選んでいる。本文では、「続けること」「生きること」について、大げさにではなく謙虚に語られている。葛藤もしている。東日本大震災や、整理しきれていない気持ちや、「自分らしさ」の怖さや覚悟についても書かれている。僕はちょうどバリさんと同い年の40歳だけど、年齢や世代についても書かれている。「時間」や「関係」について書いてある本でもあるかもしれない。

 

まえがきには、『自由な乗り物みたいな存在』である音楽、それを伝える言葉においても『それぞれの方にとっての音楽のように伝えられたら』と綴られている。当初は『ただ次の音楽が聴きたいだけだったかもしれないし、明日も友達と音楽で遊んでいたかったから。』という一心だったのかもしれない。〈音楽仕事を続けて生きる〉にあたって、その初心がどう保たれ、変化し、進行しているのか。

 

『衣・食・住・音』。その時間や空間を紡ぐような音楽仕事であると同時に、カクバリズムの活動自体が音楽的で、その言葉もまた音楽のように伝わってくる。

 

 

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角張渉『衣・食・住・音 音楽仕事を続けて生きるには』

聞き手:木村俊介

 

リトルモア/2018年7月7日発売

装丁:大原大次郎

装画:吉澤成友

漫画:本秀康

扉写真:三浦和也

 

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『衣・食・住・音 音楽仕事を続けて生きるには』出版記念トークイベント
「好きなことを仕事にするのは、賛成ですか? 反対ですか?」

■ 日時:8月23日(木)20:00~21:30(開場 19:30)
*トーク1時間、ライブ30分を予定しております。
■ 会場:SPBS本店(東京都渋谷区神山町17-3 テラス神山1F)[MAP]
■ 参加費:1,500円(税込)
■ 定員:50名
※定員に達しましたので、ご予約、キャンセル待ちを締め切らせていただきました。

恐れ入りますが、何とぞご了承くださいませ。

Aug. 12, 2018